■こんな人に向けて書きました。
・何となく医学部生活でおもしろい事やってみたいなーと思っている人
・座学・見学ばっかりで”身についた感じ”がしないと思ってる人
・みんなでワイワイやりたい人
・手技を経験してみたい。
■who am I ?
皆さん初めまして。沖縄から失礼します。琉球大学医学部科6年次(2017年4月現在)の能美 康彦(の-み やすひこ)です。
金城英樹・仲間海人とのーみの三人で2016年7月31日に大阪で開催されたシムリンピック2016に参加。救急対応・泌尿器診察・腹部診察の3項目で全16大学中1位、総合順位1位という結果を残すことができました。
個人的には大会に参加すること以上に、大会に出場するまでの過程こそ、非常に自分の糧になったと感じています。少しでも皆さんの参考になればと思い今回体験記を共有させて頂きます。
■シムリンピックって何?
日本医学教育学会が主宰してくださっている大会です。HPから文言を抜粋すると
”シミュレーション教育の理解と普及をはかること及び医学生の臨床能力を客観的に評価するシステムを確立することを目的~(中略)~この企画では、全国から各大学の医学生に参集していただき、臨床実習での学習の成果を3人1チームで力試しするイベントを行います。”とのことです。
具体的には全国16大学それぞれから集った3人1チームで,”救急対応、救急蘇生、循環器診察、呼吸器診察、腹部診察、医療面接と基本手技、腎・泌尿器診療・医療面接と鑑別診断”の8項目について診療能力を競いました。2016年度で3回目であり、腎・泌尿器診察および医療面接と鑑別診断の後2項目は2016年度から追加された項目です。
またこれはあくまで一説にすぎませんがAdvanced OSCEを全国で標準化していくうえでどんな問題が良いのかの評価をこの大会で行っているという話しがあります。大分サンプルが偏っていそうですけど、どうなんですかね笑
■OSCEとどう違うの?
OSCEでは例えば腹部診察というブースでは”腹部の触診をしなさい”、神経診察のブースでは”バレー徴候をとりなさい”など、単発の”手技”が問われる事が多かったと思います。
OSCEを経験された方なら分かると思いますがどうしても”手技”に着目して練習すると一見それらは単調であり、正直おもしろく無い、なんの為にやるのかが謎・・・・ということになりがちだと思います。
一方シムリンピックではより将来遭遇するであろう症例の流れに沿って、単に手技ができるかというだけでなく、適切な”対応”ができるのか?という事が疑われます。
しかし実際の状況を想定してトレーニングを積むことで、そもそもどういうときにその手技・検査を行うべきか、その結果を踏まえていかにマネジメントをする訓練になります。
■どんな事が当日問われたか少しだけ紹介
腹部診察のブースでは、高脂血症の既往のある50代男性が腹痛で入院したという状況を想定し、問診、身体診察、エコーでの各種腹部臓器の描出、以上の結果を総合して診断と治療方針の説明を応えるというものが問われました。
また、腎泌尿器診察のブースではADL fullの高齢男性が風邪薬を飲んだ跡の突然の尿閉を主訴に来院したという状況を想定しました。直腸診察→導尿→Labのオーダー→結果を踏まえての患者説明を3人で分担しつつこなします。
医療面接と基本手技のブースでは身体障害者の方への配慮を行いつつ、医療面接と採血を行いました。
救急対応のブースでは若年男性が突然の動悸,shockという状況で救急搬送され三人の研修医で初期対応する・・・という内容でした。この手技をやれ!という指定すら有りません笑。みんなで分担して病歴聴取・検査のオーダーをすすめ、初期治療を評価を自分達で考えて、その場である器具を用いて進めていきます。
ポリクリで救急をローテーとしている時も、重症の患者さんへの対処は”見学”しました。
しかし、自分の目の前で刻一刻と悪化している患者さんに対峙し、自分達なりに処置をしているにも関わらず刻一刻と患者さんは様態が悪化していく・・・当事者になるとあやふやな知識に基づいた決断が非常に恐ろしくなります。そして分かっていても動けない自分、自分だけが出来てもダメでチームで行動する為の仕組み・しかけの必要性を学びました。
2016の大会の出題内容、琉球大学チームが何を想定して準備をしてきたかをを詳しく知りたい方は、2016年度琉球大学内部で行った報告会の資料が有りますのでそちらを参照してください。
※ 写真を削除している為、slideの内容のつながりが一部失われていますがご了承ください。
実は個人的には今回あまり出題内容について語るつもりはありません。試験対策のprofessionalである医学生はどうしても過去問に頼りがちですが笑、正直この大会、それ以上に将来のコトを考えたときに過去問や大会で良い成績を残す事よりも大事なコトがあると思うからです。
■医学教育は変わりつつあり箱は整いつつ有るが・・・実戦性に課題あり?
近年各大学のポリクリ期間は延長され、より実戦的な内容が志向される傾向にはあります。しかしほぼ見学主体であるのが現実だと思います。指導医の先生方も非常にお忙しく、
レクチャーやハンズオンの指導を全員にというわけにはいかないでしょう。たしかに何も出来ない学生がいきなり患者さんに医療行為を行うというのも無理があります。そうしたなかSimulationを行うことが出来る場所・施設各大学に増えてきていると思います。
しかし学生のアクセスが悪くなかなか自由に使うことができないというの大学が多いのではないでしょうか?
私達、琉球大学もsimulationセンター、通称”ちゅらsim”があります(http://okinawa-clinical-sim.org/outline.html)。OSCE2週間ほど前には学生に開放され、OSCEに関わる器具は予約制で自由に利用できます。縫合や心エコーなどに触れてみる機会として、いくつかの科ではポリクリ中90分程度利用する機会があります。逆に言うと是が全てです。(現在カリキュラムは改革中であり、後輩達はより機会が増えるようですが・・)
■本題:シムリンピックは大学を活用し、みんなで成長するチャンス!
そこでシムリンピックです!シムリンピックに出るという大義名分があれば先生方にも協力を得られやすくなり、simulationセンター等の設備が圧倒的に利用しやすくなります。
また、琉球大学に限らず、大学の先生は教育に情熱をもたれていらっしゃる先生方がいるはずです。そうした先生方にも、”シムリンピックという大学の代表として出るんですけど〜”という形で声をかけてみてください!。きっと協力してくださるはずです。
考えて見て欲しいんですが大学の先生方って卒後10~20年目でその分野では一流のDrな訳です。このクラスの先生方に少人数でご指導して頂ける機会ってほとんど無いわけで・・・。本当に貴重な機会ですよね。
そして何より出場する自分達も曲がりなりにも”大学代表”な訳ですからヘタッピではやってられません。例として白状しますと自分は糸結びも縫合もこのシムリンピックに出るまで全然やったことなんてありませんでした。聴診?ベル型と膜型って奴があって使い分けなきゃいけない時があるんだな〜ぐらいのレベルでした。大会出場というプレッシャーを旨く活用して、練習することで少しずつマシになったなと感じています。
とにかく!シムリンピックは、自分を成長させる良い機会であり,大学を活用する良いチャンスな訳です。そうは言っても、どんな感じでやれば良いのか?疑問があると思います。練習法の詳細は上述の報告会のpdfを診て頂くとして・・・琉球大学の協力の事例を紹介させて頂きます。
■又先生をはじめとした琉球大学の協力の事例:大学+大学外を巻き込む。
実は琉球大学は今年で2度目の出場になります。2015年度出場者の濱川和音、二木良平、﨑山広大の3名が準決勝という結果を得てくださっていたおかげで、2016年度の協力が得やすかったという側面がありました。特に良平さんからは個人的に救急対応トレーニングをして頂けたことがチームの役割分担を見直すきっかけになり、チームでのパフォーマンスが向上しました。広大さん、和音さんからは練習法のアドバイスをいただきました。
2015年度と異なるのは「大騒ぎして協力を求めたこと」、そして出場メンバー以外の学生として三年生も交えて最大総勢13名でトレーニングしたことです。結果昨年度に比べて多くの先生方からご指導を賜ることができました。
また出題される、されない関係なしに自分たちが将来使うかもしれないこと、勉強したいことを学ぶことを意識していました。なので出題は全く想定していなかったエコーや産婦人科、挿管などもトレーニングしていましたが蓋を開けてみれば何一つ無駄なことはありませんでした。
シミュレーションセンターの又吉先生からは施設の使用の便宜、シミュレータの使い方指導、心臓エコーの講義、を4時間にわたってしていただきました。それより何よりも常に暖かく見守って頂けました。夜9時でもひょこっと顔をだしてくださる又吉先生には非常に勇気付けられました。
地域医療部の武村先生からは三時間で7症例近く症例ベースの初期対応をトレーニングして頂きました。動きながらチームで戦う思想を綿密なフィードバックを通じて学ばせて頂きました。救急対応の基礎は武村先生に築いて頂いたと言っても過言ではありません。
救急部の玉城先生からは毎度先生の当直明けや荒れた救急部の合間を縫って、小外科への初期対応、縫合、胸部x線の読影、cprを5時間近くご指導頂きました。細菌学、消毒液のスペクトラム、常にソースを当たる大切さ、論文の読み方、中部病院時代の思い出やひいては海洋生物への対処まで!!本当にいろんなことを交えながら楽しく教えていただきました。救急部の久木田教授からはaclsのトレーニングを低学年交えての8名でお忙しい時間の合間を縫ってメガコード形式でトレーニングして頂けました。まさか出ないだろ・・・と思ってましたが、折角の機会という思いで学ばせて頂いた事がまさかの本番で出場されました!(何が出るか分からないし、過去問対策よりも学びたい・学ぶべき事をやりましょう!)
産婦人科の新田先生からは羊水塞栓の実症例の話を通じて、妊婦と胎児の救命に全力を尽くす産婦人科の教えていただきました。産婦人科は出場項目ではありませんでしたが、女性の患者さんを診ないDrはいません。女性への配慮ということは、形は異なりますが今回の出題のように身体障害者への配慮という点で通ずるものがあったと感じています。
また米内先生をはじめとする浦添総合病院様主催の学生向け勉強会spamも救急初期対応を実践的な形でのトレーニングに大いに役立ちました。本番でも金城と僕でspamポーズからはじめました〜笑
たまたま同時期に開催された、医学書院の野中様、宮城先生、徳田先生、山中先生、喜捨場先生らの総合診療医セミナーもたまたま大会前に開催されたのも幸運でした。身体診察を見直すきっかけになりました。金城がリーダーを務めた腹部診療での一位受賞につながったと思います。また仲間の呼吸器診療の基礎を固めていただきました。
城戸口先生、仲田先生をはじめとした那覇市立病院様主催の症例検討を通じて学んだ、全体を見て考える重要性は今回シムリンピックが全体的に臨床よりになり、特定の手技よりも病歴、身体診察、検査を総合的に考えさせる出題傾向に本当にマッチしていました。
水戸済生会病院様、水戸協同病院様主催の水戸医学生セミナーで多数傷病者対応の経験を結果はともあれしていたことも、aedが壊れて動かない、バックマスキクの部品が足らない、psvtがatpでもvalsalvaでも治らなくて循環器の先生は降りて来れんというストレスフルな環境でも落ち着いて決断する度胸の練磨に役立ちました。
旅費の助成をして頂いた小宮先生や名嘉地先生といった、一見目立たない部分でも非常に多くの方々からサポートを頂いていました。改めて思い返すとなんと多くの方々から支援をして頂いたのかと本当に思います。
■SO what?
長々とココまで書いてきましたが何をいいたいのか、結局3つです。
1) シムリンピックは”何となく知ってる”を”出来るかも?”に磨き上げる良い機会。
2) シムリンピックという”ネタ”を通じて、皆さんがやってみたいことを学ぼう!
3) 大学の内も外も巻き込んでいこう!
来年度初出場されるチームもあるかもしれません。そんな時は上に上げた琉球大学の事例を参考に先生方に伝えてみてください。うまく行くことを、シムリンピックが皆さんが楽しい大学生活を送るきっかけになる事を祈っています。
最後に、シムリンピック2016主催者の皆様方、出場者の皆様方、本当にありがとうございました。こんな贅沢な機会は他にありませんでした。本当にありがとう御座いました。
そして遅筆でご迷惑をおかけした大塚君の忍耐力と寛容の心に感謝します。